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(半分こ)

 幼いころの思い出は、当時まだ存命だった父の、穏やかな微笑みから始まっている。
「ユリアは、お花を見るより、おいしいお団子やお饅頭を食べるほうが好きなのだね」
 ふたりで、桃の花の下でお弁当を食べた。あのとき、ユリアは3才くらいだっただろうか。半分に割ってもらった、もちもちした桃色のお饅頭を頬張りながら、にっこり笑い返すと、父は愛おしそうに続けた。
「ユリアは誰に似たのだろうね。元気で朗らかで可愛くて、とても素敵なお姫様だ」
 ユリアが、うふふ、と笑うと、父はユリアの黒髪をなでた。
「お団子やお饅頭はね、必ず半分に割って、誰かと一緒に食べるのだよ」
 はい、と、ユリアは素直にうなずいた。

 優しかった父は、やがて、病で他界した。病弱ゆえ王位を継げず弟に譲っていた彼の、愛情の薄い妻と、遅くに授かった娘は、世の中から忘れ去られ、ますます慎ましく、ひっそりと暮らした。遊びらしい遊びを知らないユリアは、年の近い子供もいない離宮で、いつしか<月の聖者>として術の研鑽に熱中し、齢が十を数える頃には、優れた術者となっていた。
 ユリアは自分の境遇を受け入れていたが、母には不満があるようだった。もともと、王となるひとの妻になるつもりで嫁いだ彼女には、この不遇はまったくの計算違いであり、彼女はもっと華やかな場所で、権力をふるいつつ贅沢がしたかったのだ。
 ユリアの知らないところで何かが進行しており、あるとき、亡き父の弟、つまり国王そのひとと、ユリアの母との縁談がまとまった。国王は、だいぶ前に妻を喪って以降、独り身を通していたが、周囲からの再婚の勧めを、ついに断り切れなくなったのだった。
 ユリアには、義理の兄ができることになった。母からは、仲良くする必要などないと言われたが、できれば親しく話せる間柄になりたいと、少女は願った。

 すぐに、ユリアは義兄を好きになった。第一王位継承権を持つ王子は、ユリアとたいして年が違わなかったが、静かな人柄で、<月の聖者>として優れた腕前の術者であり、端正な容貌を備えてもいた。少女の憧れのまなざしは、たいへんな熱意をもって義兄に向けられることになった。
 いままで、食べることと、術の研鑽にしか興味がなかったユリアは、真剣にドレスを選び、ダンスの稽古をし、淑女としての作法を学んだ。大広間でパーティーがあると、ユリアは着飾って義兄に寄り添い、一緒に会話したり、ときには踊ってもらったりした。
 あるとき、パーティーのさなか、王子のもとにデザート皿が届けられて、上に乗っていたのは、懐かしい、もちもちした桃色のお饅頭だった。王子が食べずに断ろうとするのを見て、
「召し上がればよろしいのに。わたくしと半分ずつにいたしましょう?」
 デザート皿を受け取ろうとすると、王子は静かに首を振って、
「食べてはいけない」
「どうして?」
 ユリアが首をかしげていると、向こうのほうから、母が血相を変えて飛んできた。
「ユリア、何をしているの。お兄さまの召し上がるものを取り上げようとは、お行儀が悪い」
「でも、おかあさま、お饅頭は半分に割って、分け合って食べるものでしょう」
「それは……」
 母は絶句して、それから、悲しそうな顔をした。
「そうね、ユリア。ともかく、こちらのお皿は、下げてもらいましょうね」
 桃色のお饅頭は、誰の手もつかないまま下げられていった。

(お父さまが生きていらしたら、いまのわたくしを見て、どう思うかしら?)
と、ユリアは自室に引き上げて、月を見ながら考える。
(お花を見るより大切な、お饅頭を食べること。それよりもっと大切な、綺麗なお洋服を着ること、お行儀よくすること、上手に踊ること、お兄さまとお話しすること……)
 ふと、父の言葉を思い出す。
(お饅頭は、半分に割って、誰かと一緒に食べるのだよ)
 ぼんやりと反芻して――はっと気づいた。ああ、そういうことだったのか!
(では、お兄さまが召し上がらなかった、あのお饅頭は)
(お母さまが慌てて飛んできたわけは)
(お兄さまに何かあったら、次期国王は)
 頭をなぐられたような衝撃……わたくしが、女王になるのだ!
(だめ、それは違う。ぜったいに違う。わたくしは、お兄さまを守る)
(お父さま、わたくし、何もわかっていませんでした)
 こうして王女は、無垢でいられた幼き日々に、別れを告げる。

 

(完)

90分で一気に書いたお話。
番外編なのか、こぼれ話なのか迷います。

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コメント

月路さん今晩は。
ご無沙汰しています。
時期的に桃の節句に因んだオマージュでしょうか?

肉親の愛薄く、高貴ゆえ他者と隔たり、温もりも恋も知らない同士出会ってしまったのでしょうか…

その後の暴走も単なる嫉妬狂いじゃなく、元は義兄を守りたいという
気持ちからだったんですかね…

時が止まった世界で聖者として
二人が暮らせるパラレルワールドがあったらいいなぁ〜
と思いました。

てはまた

とり3さん、
コメントありがとうございます♪
そうですね、ひとつ隣のパラレルワールドで、平和に暮らしていたらいいですね。

ゼラルドと父王の関係のことや、
ユリアと侍女たちの関係のことなど、
まだ書けていないこともいろいろあるので、ぽつぽつ書いて行けたらいいなと思います。
いつもありがとうございますshine

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