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  • (2018/06/14夜) 「始まりの物語・風の贈りもの」を、来月あたり印刷に出そうと思います。

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ずっと前の花火

 村に着き、馬から降りて、沈みゆく太陽を眺めていると、後ろから声をかけられた。
「おかえりなさい、あなた」
 振り返ると、声の主は、嬉しそうに笑って、彼を見上げた。
「早く家に入って、ユーシス。すぐ夕飯にするわ」
 光の加減だろうか、その瞳は潤んでいるように見える。
 彼は、あいまいに返事をした。
「……うん」
「ジャガイモと、獲れたてのトウモロコシを使うわ。おいしいわよ」
「……うん」
「もうっ、どうしたの?」
 彼女は呆れたように言って、両手を腰に当てた。
「夕日に魂を持って行かれてしまったの、ユーシス? ほら、あなたの奥さんに、ちゃんと言ってちょうだい。ただいま、エイダ、って」
「ただいま、エイダ」
「ふふ、よくできました」
 エイダはにこっとする。若者は、もぞもぞと、
「ねえ、エイダ。君は、……いつから、ぼくのお嫁さんだっけ?」
 エイダは噴き出した。
「もう! ずっと前から……本当にどうしたの、頭でもぶつけて、忘れちゃったの? 街で結婚式を挙げて、夜、たくさんの花火を上げてもらって、それはそれは綺麗だったじゃない?」
「そうだったね」
と、彼は応じた。
「あの花火は、とても綺麗だった。君もね」
「えっ、……ありがと」
 エイダは、ほんの少し、うろたえた。それから、頬を染めて、そっと彼と手をつないだ。
「疲れてるでしょ、ユーシス。馬をつないで、早くご飯にしましょう」
 二人で、馬をつなぎ、鞍を外し、飼葉桶を与えて、家に入る。エイダがためらいながら言う。
「ねえ、その髪、伸びすぎじゃないかしら? あなたらしくないわ。あたしが切ろうか?」
「……いや、切らない」
「そう?」
 パタンと、戸が閉まる。
 空には夜が広がりつつあったが、ちいさな一軒家には明るい灯が点されて、窓を金色に照らしていた。

 翌朝、二人が朝食をとっていると、家の外で、馬のいななきが聞こえた。
 ほどなく、扉がノックされて、ほがらかな若者の声がする。
「ごめんください!」
 ユーシスは、ガタンと立ち上がった。エイダも立ち上がった。青ざめていた。
「ユーシス、あなたは奥に行って。出ちゃだめ」
「でも、あの声は」
「いいから、じっとしていて」
 エイダは夫を強く睨む。ユーシスは黙って、力なく椅子に座り込む。
 エイダは足早に玄関に行き、扉を細く開けて、客を覗き見た。立っていたのは、金髪に青い瞳の、快活そうな青年だった。
「朝早くに申し訳ありません。友人の馬がつないであったので、伺いました。こちらに友人がお邪魔していませんか」
「そんな人はいません。帰ってください」
 エイダは戸を閉めようとしたが、若者は素早く、エイダの頭越しに室内を確かめた。
「いたいた。セレン、迎えに来たぞ」
 エイダは、はっと振り向いた。
「だめよ、ユーシス!」
「……ユーシスではないんだ。ごめんね」
 さっきまでユーシスだった若者は、悲しそうに言って、立ち上がった。さらさらした長い月色の髪が揺れた。
 エイダは、溜息をついて、うつむいた。長い髪の若者は、そっと言った。
「ごちそうさまでした。泊めてもらったお代を払わせてもらえますか」
「……いらないわ」
「でも」
「いらないったら。あなたのことも、いらないわ。あなたなんか。あたしのユーシスの代わりになんて、ちっともならないんだから。さっさと出て行って!」
 エイダは、きっと顔を上げて、扉を大きく開いた。長い髪の若者は、出て行きかけて、戸口で一度、振り返った。
「ねえ、エイダ。きっと誰も、あなたのユーシスの代わりにはなれないんだと思う」
 しばらく、沈黙が落ちた。エイダの顔がくしゃっと歪んで、うつむいた。かすれた声が押し出された。
「……さよなら」
 それで、セレンも答えた。
「さようなら、エイダ」

 並んで馬を歩ませながら、ルークが不謹慎なほど面白そうに言う。
「他人の名前を、そのまま呼ばせておく気になるものか? 家の名が泣くぞ、セレン・レ・ディア」
 セレンも、思うことをポツポツと口に出す。
「暗示にかけられていたような気もするし、かけられたふりをしていた気もするし、今となっては、よくわからないんだ。エイダの本当の旦那さんは、どうしたんだろう。出かけているのか、出て行ったのか、亡くなったのか、そもそも本当に旦那さんなのか……」
「さあな。気にしすぎるなよ」
「うん」
 それでも、セレンは心の中で、ひっそりと思った。ユーシスが早く帰ってきますように、あるいはエイダが、もっと適した誰かと出会えますように、と。

(完)

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コメント

セレン・・そうセレンらしいなあ・・と。
癒されました。(=^・^=)

うさパンさん、
コメントありがとうございます♪

そうですね、とてもセレンらしいです。
あまり「冒険」の話ではないなあ、と思いつつ、彼らしさがよく表れたお話なので、こぼれ話ではなく本編として書いてみましたconfident

季節の変わり目のせいなのか、元気が出ないのですが、ちまちま書いていきますsnail

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