2017年4月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            

ひとこと通信欄

  • (2017/4/23夜) お話もだけど、読みやすさとか、投稿サイトの使い方とか、いろいろ考え中。でも、ブログでの公開は、なくさないからね。

ランキング参加中!

  • 記事がお気に召したらクリックしていただけると、作者の励みになります。(1日1回まで)

    (投票せずに順位を確認したい方はこちらから。)

読者アンケート実施中♪

  • 所要時間は5分くらい?
    個人情報の入力はありません。
    よろしくお願いいたします。
    こちらから。

SF「夜景都市」(未完)

最近のトラックバック

プロフィール

  • 城

    雪村月路
    snow.moon.rainbow☆gmail.com
    (☆を@に変えてください)
    Twitter: @ariadne_maze
    ブログ更新量について
    愛読書100冊

    うちの子同盟 うちの子同盟

無料ブログはココログ

カテゴリー「【創作】」の407件の記事

旅へ(10)

 姫君は、王子の傷に布を当てながら、
「ごめんなさい。私が旅に出ることは、限られた人しか知らないはずだったの。なのに、悪い人たちに狙われていたなんて。どこから漏れたのかしら」
「漏れてはいないさ。彼らは、君が誰かを知らなかった」
「え? それなら、どうして」
「君がここまで来るあいだに――」
 フルートは言いかけたが、セレンが割り込んだ。にこにこと、
「気にしなくていいよ、フィリシア。もう片付いたから、先へ行こう」
「そう? そうね・・・」
 応じながら、フィリシアは、なんとなく気になって、遮られた王子の言葉の続きを考えた。私がここまで来るあいだに? 目を付けられた? どうして? いいえ、もちろん、
 ――見れば身分の高い者だとわかったからだ。騎士たちと侍女を連れて――!
「・・・私の覚悟が足りなかったから」
 フィリシアは青ざめて、口に出して言った。そうだ、覚悟だ。ピクニックに行くのとは違う。命を奪う呪いを解くために、命を賭けて聖泉まで辿り着かなければならないのだ。
「そのせいで、あなたに怪我をさせて・・・ごめんなさい・・・!」
「違う」
と言って、フルートはフィリシアの両肩をつかんだ。
「君が手に入れたのは、旅という名の自由だ。セレンやぼくが同行するのは、自分たち自身の自由のためであると同時に、ぼくたちなら君の自由を守れると思うからだ。悲壮な覚悟は必要ない。君はこれから」
 表情をやわらげて、目元で笑った。
「世界の果てまで遊びに行く。それだけだ」
 フィリシアは、相手の澄んだ青い瞳に吸い込まれそうに感じながら、繰り返した。
「遊びに行く・・・」
「そう。一緒に遊びに行こう、と、ぼくが迎えに行けば良かった。謝るのはこちらのほうだ。すまない」
 また泣きそうな顔になったフィリシアを見て、フルートははっとした顔をして、あわてて姫君の両肩から手を放した。
「ごめん!」
「ありがとう」
「え?」
「よろしくね」
 フィリシアは、うるむ瞳で笑った。大丈夫、きっと、大丈夫だ。このひとたちとなら、心が通う。旅と言う名の自由には、本当は覚悟も必要だけれど、それはめいめい胸の奥にしまって、世界の果てまで、遊びに行こう。
 セレンが長い髪をかきあげながら、優しい笑顔で、
「こちらこそ、よろしくお願いします、フィリシア」
と言ってくれる。フルートも、ほっとしたように笑って言う。
「では、行こう」
 聞いて、ゼラルドが無言で馬に戻り、それを合図に、みな再び馬上の人となった。

 ――こうして、彼らは出発したのだった。
 世界各地で後世に語り継がれる、あの冒険の旅へと。

(完)

旅へ(09)

 姫君は、ぽかぽかと温まったことに力づけられて、聞いてみた。
「どうして、私にこの飲みものを分けてくださったの」
 黒髪の若者は、ちらりとこちらを見て、
「妹が」
と、言いかけて、黙った。フィリシアが待っていると、先を続けた。
「泣いているとき、これを飲むと落ち着くようだったから。それはそれとして」
「はい」
「あなたが尋ねないでくれている、ぼくの出自については、おそらく、あなたの考えるとおりだと思う」
 フィリシアは、はっとした。そう、白い肌、黒い髪、黒い瞳は、ローレインの民の特徴だ。そして、ゼラルドという名は、その王家の――。
「それでは、はるか東のローレインから来たとおっしゃるの。そして、私の旅に同行してくださるとおっしゃるの。いったい、どうして」
「人にはあずかり知れない、神々の計らいによって」
「妹さんは?」
「出奔したのは、ぼく一人だ。彼女はローレインに在って、いずれ王位を継ぐだろう」
「そうなの・・・」
 妹姫は寂しく思っているだろう、というのが、フィリシアの最初に思ったことだったが、口に出さないだけの分別はあった。このひとだって、何か事情があって、親しい人たちと別れて来たのだ。故国を出なければならなかった、何か深刻な理由があるのだ。
「あなたが、あなたの目指すものを、手に入れられますように」
 フィリシアが言うと、ゼラルドはまた、謎めいた瞳でフィリシアをじっと見た。それから、ふと首を巡らせて違うほうを見るので、フィリシアがその視線を追ってみると、フルートとセレンが馬に乗って戻って来たのだった。
「待たせてすまない!」
と、フルートが言って、馬から飛び降りた。ゼラルドとフィリシアを見て、
「自己紹介は終わったのか?」
と言う。聞きようによっては無責任な言葉だったが、フィリシアは違うことに気を取られていて、耳に入っていなかった。
「フルート、あなた、怪我をしているわ!」
「怪我? ・・・ああ、これか。怪我のうちに入らないさ」
 肩の外側に傷があるらしく、服が汚れて、血が赤くにじんでいる。フィリシアは、手当てしようと駆け寄った。セレンは、ゼラルドに向かって文句を言った。
「かすり傷ではあるけれど。でも、君の言う『危険はない』は当てにならないな」
「姫君が合流するまでのことを占っただけだ。そのあとのことは関知していない」
と、黒髪の若者は少しも動じない。

あと1回かな、たぶん。

旅へ(08)

「せっかくお会いできたのですもの、何かお話しませんか」
と、フィリシアは、それでもなんとかして友好的な関係を築けないだろうかと話しかけたが、黒髪の若者は眉をひそめて、
「何かとは、何を」
と言って、迷惑そうな顔をする。どうやら、無理強いして会話を続けても嫌われるだけだ。というより、ぐしゃぐしゃに泣いたあとの顔で話しかけて、好感を持ってもらおうというほうが虫のいい話だったのだ。
「・・・ごめんなさい。何でもありません」
 フィリシアは、しょんぼりと言って、とぼとぼと近くの木の下へ退散した。ひとり、地面を見つめて所在なく立っているうちに、悲しく心細くなって、再び涙をこぼさずにはいられなかった。――旅を共にするひとたちと、最初からこんなに気持ちが擦れ違っているのに、本当にこの先長い道のりを越えて、大陸の果ての聖泉まで辿り着けるのだろうか。ほんのひととき一緒に過ごしたことがあるというだけで、フルートやセレンのことを親しい友達のように思っていたのも、自分の勘違いだったのではないだろうか。馬車も護衛も侍女も断って、私はなんと愚かだったのだろう・・・。
 すると、草を踏みしめて、ゼラルドが近寄ってきて、フィリシアの前に立った。どうしよう、何を言われるのだろうか、と、フィリシアが顔を上げると、黒髪の若者は、謎めいた黒い瞳でフィリシアを見つめ、冷ややかに言った。
「飲みものを入れる器があれば、出したまえ」
 言われたことが、よく飲み込めなかった。フィリシアは、その言葉を何度か心の中で繰り返してから、よくわからないまま、荷物から椀を取り出した。
「これでいいかしら・・・?」
 ゼラルドは黙って、どこかから取り出した小さな紙の包みを開け、中身を椀に入れた。黒っぽい粉だった。入れ終わると、もうひとつ取り出した小さな包みを開け、中身を椀に入れた。白っぽい粉だった。さらに、これもどこかから取り出した透明な細い棒で、椀の中をかきまぜた。不思議なことに、椀の中身は、みるみるうちに湯気の立つ液体になった。
「飲みたまえ」
と、ゼラルドが言った。フィリシアは、夢でも見ているように感じながら、おそるおそる椀を口元に近づけた。褐色の液体を、ふうふう冷まして一口飲むと、とても甘く、温かい。
「・・・おいしい」
 フィリシアが言うと、ゼラルドは無言でうなずいて、フィリシアから離れ、元の場所に立った。フィリシアは、ゆっくりと椀一杯を飲んだ。疲れた心身にしみわたる温もり。
「・・・ありがとう、ゼラルド」
 控えめに礼を言うと、黒髪の若者は、そっけなく答えた。
「落ち着いたなら、それでいい」
 そう言われて、フィリシアが気付くと、涙は止まっていた。

あとちょっと。

旅へ(07)

 もともとフィリシアは、恋愛や結婚に対して、それほど甘い幻想を抱いてはいなかった。いずれは政治的な理由によって、年の離れた王や王子とめあわせられるのだろうと思っていたし、夫となるひとが誰であろうと、その長所を見出して好きになれたらいい、と、まっすぐに思っていた。だが、恋人でも夫でもない人に一方的に唇を奪われるのは、年頃の乙女として、傷つかずにいられない出来事だった。しかも、恋愛感情とは何の関係もなく、「その場しのぎ」のために奪われたのだ!
 黙々と道を進むうち、やがて、森の尽きる場所に着いた。そこには月色の長い髪をした若者が待っていて、フィリシアのそばに来ると、馬から下りるのを手伝ってくれた。
「お久しぶりです、フィリシア姫。・・・どうしたの、涙が。フルートに何か言われた?」
「いいえ、何でもないの。久しぶりです、セレン・レ・ディア」
 フィリシアは、ハンカチで涙をぬぐい、無理やり微笑んだあと、気付いた。もう一人、誰かいる。少し離れた木の下に、黒い馬を連れた、黒髪に黒い目の若者が、冷めた表情で、静かに立っている。
「あちらの方は・・・?」
「フルートから聞いてない?」
 セレンは、物問いたげな視線をフルートに投げた。王子は、きまり悪そうに、
「すまない、まだ何も。それより、気になることがある。一緒に来てくれ、セレン」
「え?」
「ケビンをだまして置いて来た。今頃、悪者連中から責められているかもしれない」
「え?」
「詳しくは道中話す。ゼラルド、少しの間、フィリシアを頼む」
 フルートは、セレンを連れて、行ってしまった。
 フィリシアは、半ばあっけにとられて、心の中でフルートを恨んだ。初対面の人がいるなら、教えてくれれば良かったのに。そうしたら、みっともない泣き顔で挨拶しなくて済むように、がんばって、どうにかして泣き止んでおいたのに。
 「フィリシアを頼む」という言葉から考えるに、相手には、私が誰であるかを知らせてあるのだろう。王女は姿勢を正し、なんとか笑みらしきものを作って、挨拶をした。
「初めてお会いするのに、見苦しいところをお目にかけて申し訳ありません。フィリシアです」
「ゼラルドです。途中まで同行します」
 相手はそっけなく言ったきり沈黙し、話をつないでくれる気配はみじんもない。それどころか、フィリシアが話題を探して、
「今日は雨が降らなくて何よりでした」
と話しかけると、「別に」と無愛想に応じて、
「ぼくのことは、いないものと思ってもらって結構だ」
と、取り付くしまもなく、会話は終了だと言わんばかりの態度なのだった。

旅へ(06)

「フィアのこと、みんなには内緒だぜ」
と、ルークは口止めした。ケビンは真面目な顔で、何度も頷いた。
「うん、わかった。そうだよな。女の子たちから何されるか、考えたくもないよな」
「ああ。わかったら、俺たちを通してくれ。だいたい、どこかの姫君だったら、侍女の一人も連れず、馬車にも乗らず、こんな森の中を通るわけがないだろ」
「そうだよな」
 言いながら、ケビンはまだ迷っている。
「・・・ほんとに、本当に、ルークの彼女なんだな?」
「俺を疑うのか?」
 ルークは不機嫌に片眉を寄せると、フィアの腕をつかみ、ぐいと引き寄せた。痛い、とフィアは思ったが、間近で視線が合って、ルークがとても真剣な目をしていたので、何も言えなかった。
 ――気が付いたときには、ルークに唇を奪われていた。
 何が起こっているのか、よくわからずに、青い髪の乙女は、しばし硬直した。それからルークを押しのけようとしたが、直前に見た真剣なまなざしを思い出して手を止め、そこでやっと、これが「恋人のふり」であることを理解した。我慢して、ぎゅっと目を閉じた。みっつ数えるほどの時間ののちに、ルークは離れ、フィアはうつむいた。
 ルークは、ケビンを振り返った。
「信じたか?」
「信じた。疑って、ごめん!」
 ケビンが道をあけたので、ルークとフィアは、馬を引いて通った。
「うん、それじゃ、俺たちは行くけど。ケビンも、物騒なことに巻き込まれるなよ」
「そうだな、気を付けるよ。じゃあな!」
 ケビンの声に、フィアも顔を上げて、どうにかこうにか笑顔を作り、手を振った。
 三人はそうして、和やかに別れた。

 再び馬に乗り、森の細道を進みながら、ルークとフィア――フルートとフィリシアは、しばらく無言だった。フルートは言葉を探したが、良い案もなかったので、率直に言った。
「すまない、フィリシア」
「気にしないで」
 応じたフィリシアの声には、涙が混じっていた。フルートは少しだけ、うろたえた。
「本当にすまない」
「気にしないで」
 言いながら、王女の頬には涙がぽろぽろと流れ落ちて、止まりそうにない。
 王子は、何を言ったらいいのか分からなくなった。気まずい沈黙を抱えて、二人はとにかく道を進んだ。王女は馬の上で、うなだれた。

旅へ(05)

 森の中に続く道を、ふたりは馬に乗って進んだ。王子が、落ち着いた声で言った。
「とりいそぎ、話しておかなければならないことがある」
「何かしら」
 フィリシアが尋ねると、フルートは、何でもないことのように答えた。
「君がこのあたりを通ると予想している盗賊団がある。金目のものを手に入れたいようだ」
「え・・・」
 フィリシアは、目を見開いた。フルートが落ち着いているので慌てずに済んだが、それでも少し、動揺した。
「そんな、どうして・・・いいえ、それが本当だとしたら、どうすればいいの」
「小さな事件が起こるだけで、危険はないそうだ。だが、注意して進もう」
「危険はないそうだ――ということは、占ってもらったの?」
「ああ。それが、もうひとつ話しておきたいことだ。実は、森の向こうに」
 言いかけて、フルートは口をつぐんだ。前方に立ちふさがる人影があり、大声で呼びかけて来たのだ。
「そこの馬、止まれ、止まれ! ・・・あれ?」
 両手を広げて立ちはだかった大柄な若者は、ふたりが近づくと不思議そうな顔になった。
「ルークじゃないか。どうして、こんな所を通るんだ?」
「そっちこそ。こんな田舎で何してんだよ、ケビン」
 「ルーク」が答えると、ケビンと呼ばれた若者は、素直に答えた。
「臨時の仕事さ。ここを見張って、お姫様らしき一行が通ったら、引き止めて、合図するんだ。青い髪に、青い目のお姫様で・・・ん?」
 ケビンは言葉を切って、馬上の「フィア」をじろじろと見た。ルークは呆れて言った。
「おまえさあ。その仕事、怪しいぞ。仕事はよく選べよ」
「うーん、やっぱり怪しいかな? まあ、俺も少し、思ったんだけどな・・・」
「こいつはお姫様なんかじゃないぜ」
 ルークは言って、馬から降り、フィアにも手を貸して、馬から降ろした。
「この恰好を見れば、王族でも貴族でもないの、わかるだろ」
 ケビンは、フィアが身に着けているものを、よくよく眺めた。どこから見ても庶民の服。
「そうだな。でも、じゃあ、誰なんだい」
「俺の、恋人のフィアだ」
 恋人?と、フィアは内心びっくりしたが、たしかに、遠縁などと言うよりも信じてもらいやすいかもしれない。話を合わせることにして、にっこりと笑った。
「初めまして、フィアです。ルークのお友達?」
 ケビンは、きまり悪そうな顔でうなずいた。
「あ、どうも。うん、ルークの友達で、ケビン。じろじろ見てごめん。ルークにこんな美人の彼女がいたなんて、全然知らなかったよ。女の子たちも、知ったら嘆くだろうなあ」

旅へ(04)

 そして、いつしか、雪の溶ける季節が巡り来た。
 早春の日差しが柔らかに降りそそぐある日、城の裏門から、ひとりの乙女が、ひっそりと馬に乗って出た。目立たない旅装に身を包んだ、青い豊かな髪の乙女こそ、もちろん、親しい人たちにしばしの別れを告げたフィリシア姫その人だった。
 隣国リーデベルクの国境までは、騎士2名と侍女1名が供をすることになっており、彼らもまた、素性の知れないように、ごく普通の装いで後に続いた。一行は数日をかけ、安全を確かめながら、流れゆく様々な旅人たちと同じ道を進んだ。
 侍女がいてくれると確かに心強い、ということは、フィリシアも早々に認めざるをえなかった。騎士たちは顔見知りだったが、フィリシアにとって打ち解けて話せる相手というわけではなかったからだ。いっそこのまま侍女を連れて行こうかと思いもしたが、フィリシアは心の中で首を振った――連れて行けば、少なくとも1年以上、故郷に帰れなくなる。しかも、もし解呪が成らなければ、私の命の失われるさまを見せてしまうかもしれない。大丈夫、フルートとセレンが相手なら、私だって対等に口がきけて気安いし、友達として信頼しているから、それほど心細くはならないと思う…。
 数日後、国境の森林地帯に着いた。ぽつぽつと商隊などが行き来しているその森の入口に、金髪の王子が、これも地味な旅装で、白馬を連れて立っていた。これを遠目に見た騎士のひとりが、「輝くばかりの白い馬では、目立ちすぎるのではないだろうか」とつぶやき、もうひとりが、「噂に聞く駿馬だ。仕方あるまい」とたしなめた。
 王子の近くまで来て、一行は馬を降り、供の者たちが当然のように膝を折ろうとしたが、
「そのまま、立っていてくれ。人目を引きたくはない」
と、フルートが穏やかに言った。フィリシアにとっては、懐かしい声だ。仰せのとおりに、と答えた騎士たちと侍女は、直立不動となり、礼を失しないように目を伏せる。フルートは、澄んだ青い目でフィリシアを見て、笑いかけた。
「お久しぶりです、フィリシア姫。お元気そうで良かった」
「お世話になります、フルートさま。どうぞよろしくお願いいたします」
 王子はうなずいて、騎士たちと侍女に向かって言った。
「あなたがたの大切な姫君は、我が命に代えてもお護りしよう。何か申し述べたいことは?」
 騎士のひとりが答えた。
「誠におそれながら。噂に名高いその剣を、我らにも受けさせてくださりませぬか」
「いいとも」
 フルートは気さくに答えた。少し離れた場所に移動して、騎士たちは順番に王子に挑み、いずれも王子に敵わなかった。騎士たちは、顔を見合わせて、うなずいた。そして、王子と、敬愛する姫君に、深々と頭を下げたあと、侍女を連れて去って行った。
「では、ぼくたちも行こうか、フィア」
「ええ、ルーク」
 こうして、身分を伏せた王子と王女は、共に旅へと踏み出したのだった。

まだ続きます。

旅へ(03)

 さて、フィリシアは、旅に連れて行く侍女を誰に決めたら公平だろうかと考え始めたものの、すぐに違和感に気づくことになった。というのも、フルートとセレンは、まず間違いなく、他に従者など連れて来ないだろう。彼ら自身も自由闊達な気性と見えたし、リーデベルクの現国王とクルシュタインの現国王が、若き日に二人きり、はるばるイルエンまで旅したことを知っているのだから、なおさらだ。それなのに、フィリシアは一人、侍女を連れて馬車に乗り、警護の者たちに守られていなくてはならないのだろうか?
 そもそも、フィリシアがフルートと、思いがけなくも互いを友人と認め合うことになったのは、あの夏の日にクルシュタインの城下町で鉢合わせたとき、フルートが「ルーク」で、フィリシアが「フィア」だったからだ。あのとき、二人の間で瞬時に通じ合った理解を思えば――、それに、旅の道中で目立たぬように気を付けるなら――、フィリシアは身分を隠し、「フィア」として徒歩か馬かで移動するほうが良く、侍女も警護も必要はない。そのほうが速く移動できるし、貴人を狙う賊に襲われる危険も減るのではないか。
 馬車も供もいりません、と娘から相談された王と王妃は、驚いたようだった。しばらく考え込んだあと、王が言った。
「・・・そう望むなら、それも良いだろう」
「まあ、陛下、フィリシアは非力な若い娘です。何かあったら――」
 王妃が憂えるのに向かって、王は微笑んだ。
「姫には弓があるよ、マデリーン。あなたと同じだ」
「弓では心もとなく思います。身の回りの世話をする者だって必要です」
「おや? あなたはふだん、身の回りのことは自分でできると誇っていたのではなかったかな。私たちは子供たちのことも、そのように育てて来たはずだ。そうだろう?」
「それは、そうですけれども」
 王妃は、夫から娘へと視線を移して、心配そうな顔をした。胸のうちに様々な不安がよぎった。ただ、ひとつひとつ考えると、そのどれもが、供を付けて小さな馬車を仕立てたくらいで解決はしないのだった。賊に狙われる可能性の他にも、たとえば、隣国の王子と共に旅することで噂が立つかもしれなかったが、馬車を仕立てたところで同じことだろう。
 フィリシアの弟のリュシオンが、もう少し年齢を重ねていれば、姉を守って同行してくれたでしょうに。と、王妃は思っても仕方のないことを思ったあと、尋ねた。
「フィリシア。ひとりで寂しくはありませんか」
「ひとりではありませんもの、お母さま」
 フィリシアは落ち着いており、にっこりと応じた。
「レティカの宝剣を持って行きますから、妖精の国のお友達と会うこともできます。もし、それでも寂しくなったら、行く先で同行者を探すこともできます」
「そう。そうね。私も、もしあなただったら、同じことを言ったかもしれない・・・」
 王妃は心を決めて、うなずいた。
「わかりました。リーデベルクに伝えておきます。少しでも、楽しい旅になりますように」

旅へ(02)

「当時、イルエンに集められていた多くの魔法使いと、聖なる術を使う人たちが、できる限りの力を尽くしてくれましたけれど、この呪いを解くことはできませんでした。それでも、ひとつだけ、未来において呪いを解く方法が判明しました。
 それは、生まれて来るあなた自身が、しかるべき時に、イルエンよりもさらに北、世界の果てにあるという、解呪の聖泉、<真実の鏡>を訪れること。そうすれば、泉から、呪いを体現する何かが現れるのだと聞いています。鍵か、鎖か、蛇か、何かそのようなものが。それを打ち滅ぼせば、あなたの呪いを解くことができるのです。
 私は、我が子がいつ旅立つべきかを知るために、魔法のナイフを1本授けられました。生まれたあなたの髪一房を切り落としたそのナイフの、鏡のように磨かれた表面が、血のように赤く染まったならば、次の誕生日を迎える前に、あなたはこの城を出なければなりません。そのナイフが、昨夜、まさに血のように赤く染まったので・・・、今日、こうしてお話をしています。
 いまは冬。あなたが誕生日を迎える夏までに、少しの猶予があります。まずは十分に準備をして、雪が溶けたら、聖泉を目指して出発してください。長い道のりになります。なるべく目立たぬほうが良いでしょう。連れて行きたい侍女を、ひとりかふたり、選んでおきなさい。警護の者については、陛下と私が、信じられる者を数名、選んでおきますから・・・」
 王妃は、話しているうちに零れてしまった涙をハンカチで拭い、言葉を続けた。
「そして、隣国リーデベルクの王妃となった、私の従姉のアイリーンが、かねてより、そのときが来たら息子を旅に同行させると言ってくれています。直系の王子は1人しかいないのだから、断ろうとしたのだけれど、どうしても、と。昨夏、あなたの誕生日のお祝いにいらしてくださった、フルート王子殿下を覚えているかしら? 気の合う様子に見えましたが、もし、あなたが嫌だったら、そう言ってお断りします。どうしましょうか」
 フィリシアは、ここまでの話を驚きとともに受け止めていたが、問いかけられて、トクンと胸が鳴った。昨夏、王子とその友セレンと仲良くなって共に城下町を散策したことや、王子が「旅をしたい」と言っていたことが、昨日のことのように鮮やかに思い出される。
 あの金髪の王子はきっと、理由がどうあれ、旅に出られる千載一遇の機会を逃したくはないだろう。フィリシアが断ったら、ずいぶん恨まれそうだ。そもそも、同行してもらうのは、少しも嫌ではない。昨夏と同じようにセレンも来るとして、二人とも、共に過ごした時間こそ短いが、もうフィリシアの友達だ。むしろ、そう・・・楽しみになるくらいだ!
「お申し出、ありがたいと思います」
と言って、フィリシアが微笑んだので、王妃も安心したように笑った。
「そう、良かったわ。お若いながら、剣術・馬術に優れていると評判の高い方ですから、きっと頼りになると思います」
 王妃は、もう一度だけ涙をぬぐい、優しい笑顔で言った。
「もう隠さなくて良いのだと思うと、胸のつかえが下りる気持ちです。悲しまないでくれて、ありがとう、フィリシア。あなたの旅の無事を、心より願っています」

旅へ(01)

 しんと冷えた、静かな冬の晩。内陸の大国クルシュタインで、誇り高き王城が、凍てつく星空を戴いて眠りにつこうとしていたとき。
 城の中から、ひとすじの悲鳴があがって、夜を切り裂いた。
 いち早く剣を取って駆けつけた国王は、しかし、愛する妃の部屋に何の異常も見ることはなかったので、戸惑いながら妻に視線を向けた。
 王妃は黙って、小さな鞘に納められた、ひとふりのナイフを差し出した。それで、国王にも合点が行った。
 王妃はうなずいた。涙があふれて頬を伝ったが、いまは落ち着いて、言った。
「そのときが来ました」
と。

 翌日、フィリシア王女は、両親に呼ばれて居間を訪れた。穏やかな日差しが、部屋の中をあたたかく照らしている。王と王妃は椅子にかけて微笑んでおり、王妃が口をひらいた。
「どうぞ、好きなところにかけて、楽にしてね、フィリシア」
「はい、お母さま」
 姫君は、お気に入りのふかふかした緑色の椅子に、姿勢よく掛けて、膝の上できちんと両手を重ねて待った。ゆるく波打つ青い髪は、両親から受け継いだものだ。
「フィリシア、あのね・・・」
 王妃は、迷うように言いかけて、言葉を探すふうだった。フィリシアは、しばらく待ったけれど、なかなか続きを聞くことができなかったので、そっと、自分から申し出た。
「お母さま。もしかして、私、旅に出るのでしょうか」
「・・・まあ!」
 王と王妃は、顔を見合わせた。それから王妃が、驚きを隠せない様子で、問うた。
「どうして、それを? あなたは、どこまで知っているの?」
「妖精の国に住む友達が、教えてくれました。私は、何か恐ろしい呪いによって、いずれ、自分の国にいられなくなるのだと。いつの日か、旅に出ることになるのだと」
 フィリシアは落ち着いて答えて、いつもと同じ笑顔で言った。
「心の準備なら、もうできています。ですから、ずっと私に伏せられていたことを、今こそ教えてください」
「・・・わかりました。よく聞いてくださいね」
 王妃は心を決めて、話し始めた。
「フィリシア、あなたも知ってのとおり、私はここから遠く北東にある国、イルエンの王族として生まれ育ちました。また、これも話したことのあるとおり、イルエンまで旅して来られたあなたのお父様と共に、悪しき魔女を滅ぼしました。
 けれども、魔女を倒したときに、私は呪われました。私が最初に産む子供は、いつか自分の国の自分の城で、気がふれて死ぬ運命となりました。あなたのことです、フィリシア」

より以前の記事一覧