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カテゴリー「【創作】」の418件の記事

軽薄な石像(02)

 ついさっきまで石像だったはずの若者から、にこっと笑いかけられて、フィリシアは、目をパチパチさせて、「まあ」とだけ言った。若者は両手でそっとフィリシアの片手を包み込み、困惑するフィリシアに向かって、こんなふうに語った。
「あなたほど優しい瞳のお嬢さんが、隣に来てくださったのは初めてです。どうか聞いてください。そして、ぼくを助けてください。
 今から十年ほど前のこと、それとも二十年ほど前のことでしょうか、もう時間のことは分からなくなってしまいましたが、ぼくには、とても美しく気立てのよい婚約者が一人いました。ただ、彼女は少しばかり焼きもちやきだったので、ぼくが他の女性を口説いたり、その女性と共に時間を過ごしたりするたびに、泣いたり怒ったりしました。ぼくは彼女の狭量さを直してもらおうと、たくさんの言葉を費やしましたが、理解してもらうことはできませんでした。
 そんなある日、ぼくたちの住んでいた街に、有名な彫刻家がやって来ました。彼の造る石像は、どれも生きているかのように精巧でした。彼のことを、実は彫刻家ではなく魔法使いなのだと言う人々もいました。つまり、彼の作品は、生きている人間や動物を、魔法で石に変えたものなのだと。ぼくの婚約者は、その言葉を信じて、ぼくに内緒で、彫刻家に依頼をしました。
 そうして、何も知らないぼくは、数日後、婚約者に誘われて、街の外に出ました。半日ほど歩いて、太陽が真南に昇りきった頃、井戸のある場所を見つけました。近くには大きな木があって、木陰には石のベンチがありました。ぼくはホッとして、少し休もうよと言い、婚約者と並んで座りました。すると、木の陰から、くだんの彫刻家が出てきました。
 婚約者は、彫刻家に向かってうなずいて、ぼくのほうに向きなおって言いました。
『ねえ、あなたは、どうしても、他の女のひとたちとの付き合いをやめないつもり?』
 それで、ぼくも答えました。
『美しい花をたくさん見つけたら、ぼくは花束にしたい。一輪だけなんて選べないよ』
 婚約者は険しい顔をして、彫刻家に向かって言いました。
『では、お願いしたとおりにしてください』
 彫刻家は両手をあげて、異国語で何かを叫びました。それから、言いました。
『これで、お二人とも石に変わります。足から順に、頭のてっぺん、髪の一筋まで』
『ええっ』
 驚いたぼくは足を動かそうとしましたが、もう両足は白い石になっていて、動かせません。
『おい、彫刻家。これはどういうことだ』
『こちらのお嬢様からのご依頼です。二人並んで石になりたいと。代金も頂戴しております』
『なんだと。エイミ、後生だから考え直してくれないか』
 ぼくは婚約者の手をとってキスしたけれど、彼女はツンと後ろを向いてしまって、その形のまま、ぼくたちは石像と化してしまったわけです。
 さて、肝心なのはここからです。時間がありません、よく聞いてください」

大変ご無沙汰しました。あと1回あります。
また少し間が空いたらすみません。

軽薄な石像(01)

 草ぼうぼうの荒れ野の中に、かろうじて道とわかる程度の頼りなさで、細い線が伸びている。夏の太陽の照り付ける下を、陽光色の髪をした若者と、青い豊かな髪の娘が、馬に乗って進んでいる。
 娘のほうは、大きな麦わら帽子をかぶっているけれど、うつむきがちで、元気がないようだ。若者のほうも、それに気づいているらしく、ときどき案じるように振り返ったり、休む場所を探すように辺りを見回したりしているが、あいにく適当な場所を見つけることができないでいる。
 ・・・いや。道の先のほうに、ようやく、小さな木陰と、石のベンチらしきものが見えて来た。白っぽい人影が二人、腰をかけているようだが、席をつめてもらうか、譲ってもらうかして、フィリシアだけでも馬から降ろして休ませてやることができたら。
 さらに馬を進めて、石のベンチの近くまで来ると、なんと、ベンチに座っている二人は石像だった。昔の石工が演劇の一場面でも彫ったものだろうか、風雨にさらされた石像たちは、古風な服装の若い男女をかたどったものだ。女のほうはベンチの端で、振り返って何かに気を取られている様子。隣にいる男のほうは、女の片手を押しいただいて、その指にキスをしている。そのさらに隣に、ようやく人ひとり座れる場所があり、フルートはフィリシアを馬から降ろし、石が熱くなっていないことを確認したうえで、そこに座らせた。フィリシアは、ぐったりと石像に寄り掛かった。
 フルートは、フィリシアの荷物から、ぬるくなった水を取り出して渡してやった。フィリシアが少しずつ飲んでいる間に、さらに周りを見回してみると、ちょうど、石像の女が振り返って気を取られている方角に、井戸らしきものが見える。あの井戸は生きているだろうか。もしそうなら、少しは冷たい水が汲めるだろうか。
 あたりには、見渡す限り、人の気配も、獣の気配も、魔物の気配もない。すぐに戻るから休んでいるように、とフィリシアに言い聞かせて、フルートは井戸のほうに向かった。

 さて、フィリシアが、石像にもたれかかって、ぬるい水を飲みながら、ぼんやりとフルートを待っていると、かすれた小さな声が、何か言ったような気がした。フィリシアは少し体を起こしたが、風が草を揺らす音を聞き違えたのだろうと思って、また石像にもたれた。石像の形が、いくらか変わったような気もしたが、気のせいだろうと思った。
 再び、ひそひそと声がした。今度は、言葉が聞き取れるくらいの大きさだった。
「お嬢さん、驚かないでくださいね」
 ゆっくりと石像が動きだしたので、姫君は驚いて体を離し、まじまじと石像の男を見つめた。白い石像は、目の前で薄く色づきながらフィリシアのほうを振り返り、髪はうっすら栗色の巻き毛、気取った形の羽つき帽子と、ゆったりしたローブはうっすら朱色。フィリシアと向き合うと、石像の瞳は明るい茶色になり、じっとフィリシアの目を見つめながら、言葉を続けた。
「隣に美しい女性が座ってくださるときだけ、わずかな間、動くことができるのです」

お祝いのお菓子(05)

 それからしばらく、みんなでクリームとパンケーキを食べながら、故郷での誕生日の慣習について話した。境遇が似通っているから、感想が似ている点もあって、パーティーでふだん会えないひとに会えて嬉しいという話や、初対面の人を覚えるのに苦労するという話や、一方で、王子と王女ではもらえるプレゼントがだいぶ違っていたり、お国柄によっても風習が異なっていたり・・・。
「でも、こういう誕生日は、初めてだ」
と、フルートがしみじみ言った。
「心を許せる友人たちとだけ、静かに過ごせる誕生日など、今年だけだろうな」
「そうね。私も、一生忘れないと思う。今年の私の誕生日のことも、今日の、あなたの誕生日のことも」
「! ごめん、いやなことを思い出させたか」
 フルートが、あわてて言った。フィリシアの誕生日には、悪しき魔女の亡霊が現れ、忌まわしき呪いを発動させている。
「え?」
 フィリシアは、きょとんとして、それから、こちらもあわてて、
「いいえ、ちがうわ。旅先の静かな村でケーキを焼いたり、そこに住む人たちにお祝いの歌を歌ってもらったり、そういうこと」
「そうか。フィリシア、ぼくは」
 フルートは、つい言いかけて、口をつぐんだ。来年も、こんなふうに共に過ごせたらいいのに、という願いは、向こう1年、姫君の呪いが解けなければいいという願いに等しく、言葉にするわけにはいかなかった。
「なあに、フルート?」
「・・・とても美味しかった。ごちそうさま」
「ふふ、喜んでもらえて良かった! 作った甲斐があったわ」
 フィリシアは上機嫌で、済んだ食器を回収する。
「バスケット、持つよ」
「ありがとう!」
 王子と王女は、仲良く語らいながら、立ち上がって、一緒に歩き出す。
 セレンは二人を見送って、自分も立ち上がり、服に付いた草を手で払いながら、ぶつぶつ言った。
「・・・ああいうときはさ。旅が終わっても一緒にいてくれないか、とか言えばいいんだ。そうじゃない?」
「提案があるなら、ぼくではなく、フルート本人に言いたまえ」
 ゼラルドも、立ち上がりながら、冷ややかに言う。セレンは愚痴っぽく、
「そこまで親切に教えてやるのも、なんだか癪に障るんだよね。あの優しいお姫様は、ぼくの誕生日にも、手づからお菓子を作ってくれるかなあ」
「要望があるなら、ぼくではなく、フィリシア本人に言いたまえ」
 歩き出すゼラルドを、セレンは、じろりと睨んだ。隣に並んで歩きながら、
「わかってないな! こういうのは、言わなくても作ってくれる、というところに意義があるんだ」
「君にとっての意義など、知ったことか」
 夏の日差しは空高くから照り付けるけれど、旅する仲間たちにとって、今日という一日は、平穏で、特別で、貴い。

(完)

お祝いのお菓子(04)

 青い髪の姫君は、仲間たちに無邪気な笑顔を向けて、
「お待たせ! すぐに配るから、待っていてね」
 そう言って、自分も木陰に座り、バスケットの中身を出し始めた。
 ふたつのバスケットのうち、ひとつめの中には、重ねた皿と、重ねたパンケーキが入っていた。姫君がそれを配分して、みんなのお皿に2枚ずつ、きつね色のパンケーキが乗っかった。
「まだ食べないでね」
 いそいそとふたつめのバスケットを開けると、大きなボウルにいっぱいの、白っぽいクリームが入っている。
「おさじで食べてね」
 姫君は木べらで思い切りよくクリームを掬い、たっぷり大きな塊で、めいめいのパンケーキの上に盛り上げた。
「はい、どうぞ」
 若者たちにパンケーキの皿を手渡したあと、自分のぶんも手に取って、姫君はとても満足そうだ。
 フルートが聞いた。
「食べていい?」
 フィリシアは、にっこりと答えた。
「どうぞ召し上がれ! お誕生日おめでとう、フルート!」
「ありがとう」
 フルートも笑顔で答えて、スプーンでクリームをすくい、口に入れて――目を丸くした。
「ん!」
 ごくんと飲みこんで、驚いたようにフィリシアの顔を見直した。フィリシアは目をきらきらさせて、
「どう?」
「つめたい! 美味しい! 何だい、これ。初めて食べた」
「え、初めて?」
「うん」
 フルートはセレンのほうを見る。セレンもひとさじ、すくって食べる。
「美味しい! 本当だ。つめたくて、気持ちいいね。どうやって作ったの?」
「ゼラルドに頼んで、ボウルを氷よりももっと冷たくしてもらったの。その中で、材料を混ぜて、混ぜて、混ぜて、作ったの。お城で作ってもらったのを思い出したから。リーデベルクのお城では、魔法で冷やして、何か作らないの?」
 フルートが、クリームを食べながら言った。
「毎年、氷を作って細かく削って、シロップをかけてくれるよ」
 セレンも、クリームを食べながら言った。
「うん。混ぜたりしないから、すぐだよ。作るところは見せてもらえないけれど」
「そうなのね。氷も作ってもらえるし、大好き。でも、冷たいクリームも、すごく好き!」
 言いながら、フィリシアも、自分のぶんをスプーンですくって食べる。にこにこして、
「おいしくできて、よかった! ゼラルド、あなたの好みに合うかしら」
「ああ」
 黒髪の若者はそっけない。が、そのぶん嘘はつかない性格だから、フィリシアは安心する。

すみません、あと1回。

お祝いのお菓子(03)

 セレンは言葉を重ねてみる。
「でもフルート、君の誕生日を祝うためのお菓子だよ」
「少し、申し訳ないな。でも嬉しい」
 フルートは目を閉じたまま、ほのかに笑みを浮かべている。セレンはさらに言う。
「フィリシアが旅を終えてクルシュタインに帰ったら、ぼくたちは、お菓子をもらうどころか、ただ会って共に時を過ごすことすら、ままならなくなるね。さびしくなるだろうな」
「ああ」
 短く答えた声には、はっきりと翳。セレンはもう少し続けて、
「次に会えるのはフィリシアの結婚式で、相手はぼくたちの知らない男かもしれない」
「それは嫌だ」
と、強い語調で言ったフルートは、ぱちりと目を開けた。自分の口から出た言葉に、やや驚いたような、戸惑ったような顔をしており、歯切れ悪く、
「相手の人となりを知らずに、祝福できる自信がない・・・」
「知り合いならいいの? たとえば、もし、ぼくがフィリシアと」
「なんだって!」
 フルートは血相を変えて飛び起きた。怒鳴られる前に、セレンは慌てて、
「いや、何もしてない! 仮定の話だよ。本当だってば。なんにもしてないから」
「そうか。おどかすなよ」
 自分が勝手に驚いたくせに、フルートはそう言って、ほっと息をついた。複雑な表情で、
「先のことをあれこれ言っても仕方ないだろう」
 言ったあと、視線の向きを変え、気が付いて、
「噂をすれば」
「本当だ」
 青い髪の姫君が、台所を借りていた民家の戸口から出て来て、きょろきょろと周りを見回している。木陰で休んでいる若者たちを見つけると、いったん中に戻ってから、大きなバスケットを二つ提げて出て来た。どうやら、外で食べることにしたらしい。
「フルート、荷物を手伝ってあげたら」
「ああ」
 金髪の王子は、軽やかに立ち上がり、駆けて行く。
「・・・フィリシアの結婚相手が、自分以外の誰であっても納得できないのだ、と。気がついたかなあ」
 セレンがぼやくと、木の反対側で、ゼラルドが、
「気づいていないように思う」
 ぼそっと言った。
 そして、バスケットを持った二人がこちらに向かって来るので、その話は、そこまでになった。

延びています。あと1回。

お祝いのお菓子(02)

 さて、陽光色の髪をした王子様のほうはと言えば。盛夏には自分の誕生日が来る、ということなど、もちろん、きれいさっぱり忘れていた。したがって、いつものようにセレンとふたりで地図を見ながら予定を計画しているとき、さりげなく、こう指摘されることになった。
「その行程だと、君の誕生日は、一日中、移動日になりそうだね?」
「誕生日。そうだな。不都合か?」
 フルートは、思ってもみなかったことを言われて、そう聞き返した。セレンは微笑して、
「そういう日くらい、のんびりしようよ」
「農村しかないぞ」
「それでも。ただでさえ全体としては強行軍なのだし、毎日暑くてたまらないし。お姫様を休ませてあげない?」
「わかった」
 フルートは素直に了承した。いつもセレンは、行程が厳しいものになりすぎないように調整してくれている。フルートも、気にかけているつもりではあるのだが、時々うっかり、気がせいて、自分の体力を基準にしてしまうことがあり、反省しなければいけないと思う。
 かくして、王子様の誕生日の当日は、姫君の誕生日がそうだったのと同じように、のどかな農村で迎えることになった。気のいい村人たちは、寝泊りできる場所を快く貸してくれて、払った代金以上に牛乳も卵もたっぷり譲ってくれて、フィリシアが台所を使わせてほしいと頼んだときも、昼間のうちなら好きなだけ使っていいよと、笑顔で応じてくれた。フィリシアは張りきって、腕まくりした。
「お祝いにお菓子を作るわ。お昼に食べましょう。でも、作るところは覗かないでね」
 いたずらっぽく、きらきらと笑う姫君は、とても楽しそうだ。
「出来上がったら呼びに行くから、それまで遊んでいてね!」

 と、いうわけで、「遊んでいて」と言われた若者たちは、しばらく村はずれの空き地で剣の稽古などしていたものの、日が高く昇るにつれて暑くなったので、嫌になったセレンが、「こう太陽の照りつける日に鍛錬しても体を壊すだけだ」と強硬に主張して、じきに三人、大きな木の陰で思い思いにくつろぎつつ、ぽつぽつと会話を交わすことになった。
「フルート、君さ」
と、木の幹にもたれて座っているセレンが話しかける。
「うん?」
と、金髪の王子は、仰向けに寝そべって目を閉じたまま、先を促す。セレンは、さらさらと長い月色の髪を結わえ直しながら、
「どう思っているの。優しいお姫様が、君のためにお菓子を作ってくれることについて」
「みんなで食べるために、だろう。ぼくのためではないさ」
 フルートは淡々と指摘する。ゼラルドは木の反対側にもたれて、黙って聞いている。

続きます…。

お祝いのお菓子(01)

「ねえ、セレン?」
 青い髪の姫君が、何か言いたそうに近づいて来るのを見て、セレンは、あれ、と思った。というのも、近くに金髪の王子がいないのを確かめるように、周りを窺がいながら近づいて来るその様子が、セレンの知っている宮廷の花たちの、「王子殿下はどのような女性を好ましく思われるのでしょう」という質問を思い起こさせたからだ。あるいは城下に住む女の子たちの、「ルークって、どんな子が好み?」という、聞き飽きるくらい聞かされた台詞を。
 しかし、その手の話題に疎そうなフィリシアが、本当にそんなことを尋ねるだろうか。いや、もしも聞かれるようなことがあったら、フィリシアのためだけでなく、似た者同士の恋愛音痴な王子様のためにも、「君のようなひとに心惹かれると思うよ」と、直球で答えてあげるけれども。
 などと内心で思いつつ、セレンはいつもと同じ微笑みで、優しく応じた。
「どうしたの、フィリシア」
「あのね、フルートのいないうちに、内緒で聞かせて」
 姫君は、ひそひそと言う。セレンはうなずいて、
「いいよ、なんでも話してあげる。どんなこと?」
「あのね・・・私の記憶がまちがっていなければ、もうすぐフルートの誕生日だと思うの」
 フィリシアは、心もとなそうにセレンを見上げている。ああ、そういうことか。セレンが得心しながら、「そうだね」と肯定すると、フィリシアははにかんだ笑顔になった。
「それでね、何をあげたら喜んでもらえるか、助言をいただける? よく考えたら、私、年の近い男のひとに個人的な贈りものをしたことがなくて、見当もつかないの」
 それはフルートのために喜ばしい知らせだ、と思いつつ、セレンはにっこりと答える。
「君の唇がいいと思うよ」
 フィリシアは目を大きくして、うっすら赤くなった。
「もう、ふざけないで。私、まじめに聞いているのに」
「ふふ、ごめんね」
 まじめに答えたのだけれど。まあ仕方ないか。
「そうだね、前に焼いてくれたケーキはどう? 喜ぶと思うよ、彼」
「そう? それなら、何か特別な感じのケーキを・・・うーん、特別な・・・特別な・・・」
 フィリシアは、しばらく考えたあと、何かひらめいたのだろう、ぱあっと顔を輝かせた。
「いいことを思いついた!」
「いいことって?」
「あのね」
 言いかけて、はっとしたように、手で口をおさえた。きらきらする青い目で、
「ないしょ! ありがとう、セレン!」
 そう言って、ぱたぱたと駆けて行ってしまう。何を思いついたのだろう。セレンが行方を見ていると、ゼラルドのほうに駆け寄って行くようだ。ゼラルドには内緒にしないのか・・・。

なりゆきの英雄(04)

 ルークは広場を見渡して、軽くうなずき、大きな声で、落ち着いて、続けた。
「ここに、あの花の化け物を叩き斬れる剣がある。見えるか? よし。
 俺はただの通りすがりだけど、これも何かの縁だから、あの化け物を叩き斬る!」
 おお、と広場がどよめく。
「一番でかい花は俺がぶった切るけど、町中に伸びてるツルのほうも、この際いっぺんに始末しちまおうぜ! そっちは、あんたたちが! 男も女も、みんなで! 斧でも包丁でもいいから、一斉に切って、切って、暖炉で燃やしちまえ!」
 おお!と、さっきより大きく、広場がどよめく。
「3人くらいは、俺の手伝いに来てくれ。腕に自信のあるやつ、いるか。
 ありがとう、じゃ、そこのあんたと、あんたと、そっちのあんたに頼む。
 残りのみんなは、さっそく今から、自分ちに陣取っている花のツルを退治しに――」
 このとき、町の鐘が鳴った。ルークは、にこっと笑った。
「行ってくれ! 次の鐘が鳴ったら、またここに集合だ。それまで、みんなで頑張ろうぜ!」
 何人かが「おう!」「よし、やるぜ」と叫んだ。おのずと、広場から拍手が沸いた。ルークは手を振って、木箱を降りた。町の人々も、気合をみなぎらせて散っていく。
 ヒンデンは、降りて来たルークを尊敬のまなざしで見て、
「あんた、このまま、うちの町長にならないか」
「ははっ、悪い。よその町で、もう決まってるんだ」
 ルークが笑うと、納得のいった顔をした。
「そうか。そうなのか。そうだよな。わかる気がする」
「ぶつぶつ言ってないで、行くぞ」
「あ、ああ」
 そうして、ルークとヒンデンと力自慢たちは、道幅いっぱいに花びらを広げているウロコ花を退治しに向かった。といっても、ヒンデンは、少し離れて、馬やロバが襲われないように守る役だったが。
 たいまつも持って行った。うねうねと襲い掛かって来るツルが怯むので、役に立った。ルークが巨大花と戦っている間、力自慢たちは、たいまつをかざしながら片手斧でツルを切り落とした。彼らは、やがて優位に立った。バラバラにちぎれた花の噛み鳴らす口の中から、何か得体のしれない目玉のようなものがニュッと出て来たところを、ルークが叩き斬ったのが、とどめになった。
「あっ」
と、叫んだのは誰だっただろう。それというのも、ルークが化け物の目玉を叩き斬ったとたん、すべての花、すべての葉、すべてのツルが、一瞬にして黒い灰のようなものになり、崩れ去ったのだ。
 振り向けば、家々の屋根に咲いていた紫色の花も。町の人々が切り落として運んでいたツルも。すべては、黒い灰となって次々に崩れてゆくところだった。
 町の鐘が鳴った。
「もうそんな時間か。ギリギリだったな」
と、ルークは言いながら、手の甲で額の汗をぬぐい、ほっとした笑顔になった。

 広場で、町の人々は皆、拍手していた。ルークは再び、木箱の上に立った。
「おつかれさん! あんたたちも俺も、よくやったよな!」
 歓声。おつかれさま! ありがとう!
「俺は通りすがりだから、もう行くけど。この剣は、こいつに預けて行くから!」
 こいつって? ヒンデン? なんで? ざわざわ…。
「2、3日、様子を見て、何事もなければ、みんなで祝ってくれよな! じゃ!」
 降りて来たルークから、ヒンデンは大剣を受け取った。
「行っちゃうのか? 泊まって行かないのか?」
「ああ、まだ明るいから。馬、見ててくれて、ありがとな」
「明日とか、あさってとか、でかい花がまた出たらどうしたらいい?」
「出ないさ。もし出たら、今日と同じようにやればいい」
 ルークは、なんでもないことのように言って、馬に飛び乗り、馬上で笑った。
「だいたい、もし明日もあんなのが出たとして、俺を当てにするのは勘弁しろよ。俺はただの通りすがりで、化け物をやっつけたのは、なりゆきだったんだからさ」
「なりゆきでも、英雄だ」
 ヒンデンは真面目に言ったが、ルークは笑って取り合わず、
「じゃあな!」
と言って、町の皆に見送られながら、去って行った。

 数日後、何も起こらなかったので、町ではちょっとした宴をひらいた。
 次の朝、ヒンデンは大剣を持ち、町から少し離れた、例の白い石碑まで出かけて行った。
 くり抜かれたような形になっている石碑に、大剣をあてがって押し込むと、剣はすぐに石と同化して、何事もなかったかのように石碑の一部となった。どこをつかんで引っ張っても外れなかったし、外れたことがあるというのが嘘のようだった。
 それでも、町の住人たちの記憶の中には、「みんなで斧や包丁や松明を持って戦い、町中を覆いつくしていた化け物を倒した」ことが、誇らかに刻まれた。そして、そののち長く語り継がれたこの事件は、このようにして締めくくられることになるのだった――「こうして、通りすがりの、なりゆきの英雄さんは、みんなと一緒に、あっというまに化け物を倒して、あっというまに去って行きましたとさ」。

(完)

長くなりました。お待たせしました~。

なりゆきの英雄(03)

「どうだかな」
と、ルークは気乗りしない顔をしたものの、
「試してみるしかないか。あんたはここにいてくれ」
 言い置いて、タタッと駆けて行くと、花の化け物に向かって大剣を振り下ろした。
 バチバチという硬質な音ともに、花のウロコが何枚か弾け飛んだ。赤っぽい液体も飛び散った。だが、それだけだった。花は怒り狂い、歯を噛み鳴らしながらルークに迫り、同時に、四方八方に伸びているツルが、一斉にうねうねとルークに向かって来た!
 後方で見ていたヒンデンは「うわあああ」と叫んだが、ルークは落ち着いていた。大剣を何度か振るって身を守り、ツルの隙間を縫って、タタッと駆け戻って来た。ツルは、うねうねと激しく動いているが、追っては来ない。
 ヒンデンは上ずった声で、「大丈夫か? 大丈夫か?」と繰り返した。ルークは頷いた。
「すごく頑丈なウロコだけど、たしかに、この剣なら折れないで済みそうだ」
 言いながら、片手を腰にあて、軽く首をかしげて、
「そうは言っても、時間はかかりそうな手ごたえだったな。集まって来るツルも、剣で切れるのは分かったけど、うっかり絡めとられたら身動き取れなくなるだろうし」
「あのツル、切っても切っても生えて来るんだ。なんとかなるかな?」
 ヒンデンが尋ねると、ルークは視線を上げて、これまたあっさりと言った。
「俺ひとりじゃ、無理だな」
「そ、そんな」
 ヒンデンは狼狽した。しどろもどろに、
「で、でも、ほら、剣は1本だし。たぶん神剣だし。あんたは選ばれたんだし。ま、まさか、俺をおとりにして、俺が食われている間に・・・」
 ヒンデンは勝手に想像し、青ざめて、今にも逃げだしそうだ。ルークは苦笑した。
「それもいいな」
「えええっ」
「うそだよ。町の人たちと話したい。力自慢もいるんだろ。どこに行けば話せる?」
「あ、ああ。それなら、こっちへ。たぶん広場にいる」
 ヒンデンは、再び先に立って案内してくれた。やがて、銅像や井戸のある、円形の広場に着いて、ヒンデンはきょろきょろした。
「ええと、今いる中で腕っぷしの強いのは・・・」
「けっこう人が集まってるんだな」
「うん、手が空いたらここに集まって、みんなで考えることになってるから」
 小さな町ではあるが、非常事態とあって、男も女も、広場に相当数が集まっている。みな、数人ずつで集まりながら、深刻な顔をして、ああでもない、こうでもないと話し合っているようだ。時折、怒声や、すすり泣く声が聞こえる。
 ルークは、ざっと辺りを見回した。
「まとめ役はいないのか?」
「それが、町長は少し前から臥せっていて、代理に立ちたがっている二人が反目していて、そのう、なんていうか・・・」
「ふうん」
 ルークはさらに見渡して、広場の中心にある、誰なのかわからない銅像の隣に、木箱が積み上げてあるのを見つけた。
「あれは?」
「町長代理っぽい二人が、たまに話したくなると、あの上に立つ」
「そっか」
 ルークはすたすた歩いて行って、ひょいひょいと木箱のてっぺんに登った。ヒンデンが察して、「みんな、ちょっと聞いてくれないか」と周りに呼びかけたが、これは特に誰の注意を引くこともできなかった。
 ルークは、木箱のてっぺんで広場全体を見渡し、ひゅうっと軽く口笛を吹いたあと、すうっと息を吸って、びんと声を張った。
「みんな、聞け!」
 よく通る声が空気を震わせ、広場にいる者たちは驚いて、みなルークのほうを見た。一瞬にして、広場は水を打ったように静かになった。


あれ、3回じゃ終わらない…。

なりゆきの英雄(02)

 ひょろりと痩せた若者は、名をヒンデンと言った。ルークは馬に乗り、ヒンデンはロバに乗って、一緒に、ヒンデンの住む町まで行くことになった。道々ルークが、この大剣で何を切ればよいのかと尋ねてみると、ヒンデンは、
「ツタの化け物なんだ。たくさん花があって、口があって。見てもらったほうが早いと思う」
と答えた。あまり面倒なことにならないといいが、とルークは心の中で思った。
 果たして、町に着いたルークは、
「何だ、これは・・・」
と、驚きつつ困惑することになった。
 町中に、うねうねと、太い緑色のツルがはびこっていた。ドクドクと脈打つ不気味なツルは、家という家に絡みついており、それぞれの家のてっぺんで、紫色をした大きな花を咲かせている。花の真ん中には、口らしきものがパクパクと動いており、櫛に似た鋭い歯と思しきものを、カチカチ噛み合わせているのだった。
 馬から降りて歩きながら、ルークはひそひそと尋ねた。
「あいつら、何を食うんだ。まさか・・・」
「肉を食う。ほら、あれを見て」
 ヒンデンの指さす先で、紫の花が一輪、巻き付いた家からツルをほどきながら降りて来て、歯をカチカチ鳴らしながら、ゆらゆらと大きく動いた。時々、くわっと口を開いて、家の壁や窓に体当たりをする、そのタイミングを見計らったように、家の中にいた女性が、さっと窓を開けて、鶏のモモと思しきものを花の口に放り込むと、花は咀嚼しながら、再びツルを巻き付けて屋根まで上っていった。
 ルークは小声のまま、尋ねた。
「どうして、餌をやるんだ」
「餌をやらないと、あいつらは窓を破って、中にいる人間に食らいつくんだ。でも、そろそろ、餌にできそうな食料は尽きる」
 ヒンデンは答えてから、
「耳はないみたいだから、大声出しても平気だよ。で、あんたにその剣で倒してほしいのは、こっちなんだ。来てくれ」
 ルークは、ヒンデンのあとについて、角をいくつか曲がった。
 そこに、化け物の親玉がいた。
 大きな紫色の花びらを四方に広げて、道幅いっぱいを塞いでいる、花の怪物。よく見ると、その花びらは、紫色のウロコのようなものでびっしりと覆われている。そして、花びらに囲まれた巨大な口が、時々グワッと大きく開くところを見ると、どうやら人間の子供くらい軽々と丸呑みできそうな口なのだった。
 ヒンデンは、大声を出しても平気だと言った割に、ひそひそ声で言った。
「町中のツルは全部、大元のところが、あの親花につながっているみたいだ。でも、あれを倒そうとして力自慢が斧で立ち向かっても、ぜんぜん歯が立たなくて。斧のほうが折れちまった。しかも、近くのツルがどんどん集まって襲ってくるから、無念だけれども、逃げるしかなかったんだ」
「あー、つまり」
と、ルークは諦めながら、一応、念のために、確認した。
「あんたは俺に、あれを倒せ、と。そう言うんだな?」
「そう! そうなんだ!」
と、ヒンデンはルークに向きなおった。勢いよく頭を下げた。
「頼む! あんたが剣を取り出したあの石碑には、こう書いてあるんだよ。『一体にして無数の頭を持つ怪物の、真なる一つを打ち砕く、神剣をここに収める』。ぼくが思うに、むかし、このツルの怪物が近くに現れたことがあって、そのときに親玉の花を砕いたのが、この剣だったんじゃないかって」

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