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カテゴリー「こぼれ話」の58件の記事

こぼれ話:軽佻浮薄(けいちょうふはく)

「訪問者」というお話の中で、ゼラルドはリーデベルクにやって来るわけですが、その後、ひと冬をセレンの家で過ごします。
ゼラルドにあてがわれていた、隣に寝室の付いた広い客室は、いつしか、フルートとセレンとゼラルドが集まって話をする場所になります。

ある日、三人で話しているとき、セレンが女性関係の浮ついた発言をしたことから、ゼラルドは母国語で、ぼそっと、
『これほど軽佻浮薄な人物が、いずれ王となる者のそばにいるのは不適切だ』
と言います。セレンは聞きとがめて、同じローレイン語で、
『そういう君が、十分に重厚謹厳であるとも見えないけれどね!』
と言い返し、さらに内陸語で、「わざとローレイン語で人をそしるなんて、馬鹿にしている」と、腹を立てます。
フルートは何のコメントもしませんが、セレンはフルートに向きなおり、いらいらと、
「君は、あとで辞書を引いておくこと! 軽佻浮薄! 重厚謹厳! ローレイン語で! 通じてなかっただろう!」
と指摘して、まもなく、その場はおひらきに。
あとからゼラルドは、部屋に置いてあった辞書を引いて、内陸語の「軽佻浮薄」「重厚謹厳」を調べ、「・・・合っている」と、独り言を言います。

つまり。
ゼラルドは、「軽佻浮薄」にあたる内陸語がわからなかったので、母国語を使った。
フルートは、「軽佻浮薄」「重厚謹厳」にあたるローレイン語がわからなかった。
セレン一人が、ローレイン語と内陸語の双方で、「軽佻浮薄」「重厚謹厳」を理解していた、というお話。

さらに言うと、ゼラルドはこのとき、部屋に置いてあった辞書をしげしげと眺めて、「誰かがこの客室に、気を利かせて辞書を備え付けてくれたのだ」という事実に気づきます。
その結果、どんなふうに思ったかは・・・さあ、どんなふうに思ったでしょうね。

こぼれ話:セレンは何を書いてるの?

「星降る夜に」で、セレンが寝る前に何か書きものをしていますが、彼は比較的こまめに書きものをする人です。

***

「フルート、君もたまには、陛下に手紙を書いたら?」
「君が書いてくれるから、いい」

「フィリシア、君はどのくらいご両親に手紙を書いているの」
「大きな街に着いたときには。でも、心配をかけないようにと思うと、書けることと書けないこととあって…。セレンは、どのくらい本当のことを書くの?」
「ゆうべ書いたぶん、まだ封をしていないから、読む?」
「いいの? …まあ! たしかに心配はかけないでしょうけれど…いいのかしら」
「ゆうべ書いた日記のほうは、これ」
「いいの? …単語ばかり。でも、自分であとで見て、思い出せるわね」

というふうに、書き分けている模様です。

***

ブログの更新頻度が落ちていて、広場もさぼっていて、すみません。
次作も未定です。いましばらくお待ちくださいsweat01

こぼれ話:小鳥の巣

ゼラルドは鳥が好きなので、こんなこともあったのでは。

***

フィリシアが買い物を終えて表に出て来ると、ゼラルドはいつものとおり、建物の陰になったところに、ひっそりと一人で立っていた。

ただ、いつもと違うところもあった。ふだんは視線が下を向いて、たいてい聖札を眺めているのに、今日は視線がやや上を向いていて、口元には、ほのかな笑みさえ浮かんでいる。

ゼラルドの視線を追いかけて、フィリシアも首を巡らした。彼が何を見ていたかは、すぐに分かった。フィリシアもつい、口元がほころんだ。

それは、民家の軒下にある、小鳥の巣だった。巣立ち間近と思われる雛たちが、巣からはみ出そうなくらいに押し合いへし合いしながら、むぎゅっと収まっている。

「ゼラルド」

フィリシアが声をかけると、黒髪の若者は静かにこちらを向く。微笑は消えている。フィリシアは気にしない。笑いながら、

「あの子たち、ぎゅうぎゅうに詰まっているわね。もう、おうちを飛び立つ時期なのかしら」

「そうだね」

と答えるゼラルドの声は、いつもよりほんの少し、和らいでいる。

「明日には巣立つだろうと思う。買い物が済んだなら、行こうか」

フィリシアは、にこにこする。すましているけど優しいひとなんだな、と思う。
すこしだけ、距離が縮まった気がして、うれしい。

***

というようなことを、ツバメの巣を見ながら、思いました。
いつかこのシーンをお話の中に使うかもしれないけれど、今のところは予定がないので、 今日のこぼれ話です。

こぼれ話:世界が昨日とは違って見える(ゼラルド)

ゼラルドの場合、世界の生まれ変わりは、他の仲間たちより遅く訪れました。
幼いときに母を亡くしたときも、父王が再婚したときも、義妹の執着が少しずつ病んでいったときも、ゼラルドの世界は「じわじわと」暗く狭くなり、昨日と今日とは常に地続きだったからです。

リオンが従者として来てくれたときも、ゼラルドが国を出ることを決意したときも、昨日と今日とはやっぱり地続きでした。いったいどうして、これほどに、のっぴきならない閉ざされた生きざまになってしまったのだろうかと、彼は時々自問したものでした。
過去のどの時点においても、悩みながら、最良と思われる選択をしてきたのに、袋小路に迷い込み、あとは彼自身が消え失せるしかない…。

そのような状況でしたから、彼を取り巻く世界が劇的に変化したのは、そう、ミルガレーテの力を借りて空間を跳躍し、リーデベルクの王家の森で力尽きているところをフルートとセレンに助けられ、三日三晩眠り続けたのちに目覚めて、自らが遠い内陸の国に辿り着いていると知らされたときでした。
見知らぬ土地で、見知らぬ人々に囲まれ、内陸の言葉で会話しながら、彼はまるで夢でも見ているかのように感じており、その非現実感は、仲間たちと旅に出てからも続きました。
「霧の中」というお話に示されているように、彼にとって、この旅は「奇跡にも似た今」だったのです。
逃避行の前と後で断絶してしまった彼の世界が、ひとつの世界へと統合されたのは、のちに故国に戻ったときのことになります。…まだ語られていない、別のお話です。

こぼれ話:世界が昨日とは違って見える(セレン)

お仕事が忙しくて、こぼれ話ばかりですが、ご容赦を。
今日はセレンの話。

親に言われるまま勉強ばかりしている、心の冷えた少年だったセレンの目に、世界というものが真新しい意味を持って映るようになったのは、そう、彼が森の中で偶然フルート(ルーク)に出会ったときからでした。
年齢でいうと、11歳のとき。たしかに、友達の影響を受けやすい年頃でもあります。

自分より年下ながらカリスマ的な資質を備え、明るく美しく表情豊かで、身分という秘密を抱えた友達の出現に、セレンはすっかり心を奪われました。セレンの世界は、突然現れたこの太陽によって、急に色彩にあふれた賑やかなものになりました。
フルートと共にあることで、セレンは自分自身の「楽しい」「嬉しい」「悲しい」といった感情に気づくようになりました。のちになってセレンは、フルートに出会うより前の自分のことを、人形のように感情が乏しかったと思うようになります。

何年も一緒に過ごすうちに、二人の間柄は、より静かで確かな友情の絆に変わっていきますが、知り合った当初にいろいろと、かっこわるい恥ずかしい言動を見られてしまっているので、セレンはフルートに対しては、あまり取り繕うことがありません。
社交的でありながら、人の目を気にする神経質な一面も持っているセレンにとっては、親しい友のいる場所が、すなわち「世界の中心」なのかもしれません。

こぼれ話:世界が昨日とは違って見える(フルート)

このまえはフィリシアでしたが、今日はフルートのこと。

彼の場合、世界が生まれ変わったと感じられたのは、8歳くらいのとき、教師に連れられて、初めて城下に「おしのび」で出かけたときでした。
それまでも、父王の若かりし日の冒険談や、旅人の語る異国の話などを、興味を持って聞く子供ではあったのですが、実際に自身で城の外に出てみると、思った以上に身近なところに、思った以上に異なる文化が広がっていて、彼はすっかり興奮しました。
いつもとは違う名前で呼ばれたり、いつもとは違う言葉遣いでしゃべったりするのもスリリングな体験でしたし、初めてお金を払って買い物をし、見知らぬ人たちが雑然と行きかう中を歩き、自分と同じくらいの年頃の子供たちが駆け回って遊んだり働いたりしている光景を見ると、ドキドキして胸がいっぱいになりました。
教師は、月に一度ほど外に連れ出してくれて、そのうちに、都の子供たちとも遊ばせてくれるようになりました。やがて、フルートは一人でこっそり抜け出して遊びに行くことを覚えます。同時に、「もっと遠くに行けば、もっと違うものを見られる」という憧れを、強く抱くようになったのでした。

少年時代のフルートについて言及している番外編エピソード、「幼きもの」や「夢みたもの」にも、そういう彼の「外へのあこがれ」が見え隠れしています、ね。

こぼれ話:手の大きさ

今日は、こんなエピソード。日常の一コマです。

あるとき、セレンとフィリシアは、三人掛けくらいの大きなソファに二人でゆったり座って話をしており、セレンがなにげなく自身の長髪をひとつにまとめて三つ編みにしていると、フィリシアはその手をじっと見て、言います。
「セレンの手は、とてもきれいね。あなたの手を見ていると、私、なんだか自分の手を隠したくなるわ」
「そう? でも、君の手のほうが、華奢で、やさしくて、女の子らしいと思うよ」
「そうかしら…」
「ぼくの手はこんなに大きいし」
と、セレンがフィリシアのほうに手をひらいて見せると、フィリシアは、
「そうね、大きさは違うわね」
と言って、自分も手を出して、セレンと手のひらを重ね、大きさをくらべて、
「そうね、セレンの手はとてもきれいだけれど、手の大きさや指の長さは、こんなに違うのね…」
無防備なフィリシアを見ながら、セレンは、(このまま指をからめて口説いてみようかな)という気持ちになりかけますが、旅を始めるときにフルートから、「隣国の姫に手を出すな」と厳重注意されているので、やめておきます。
ちょうどそのとき、フルートが部屋の戸口にやって来て、手のひらを重ねている二人を見るや、
「セレン!」
と咎めるような声。セレンはフィリシアから手を離して、
「怒られるようなことは何もしていないよ。それより、君もこちらに来て、手のひらを見せて」
フルートは、よくわからないまま、二人のところまできて、片手を前に出します。セレンはそれに自分の手のひらを重ねて、フィリシアに向かって、
「ほら、フルートよりも、ぼくの手のほうが大きいくらいだもの。フルートの手だって、君の手よりは大きいはずだけれど」
言いながら、フルートとフィリシアの手のひらを重ねるように仕向けると、
「「え…」」
と、フルートとフィリシアは、手を重ねながら、どぎまぎする様子を見せます。
「そうね、フルートの手は、私の手より大きいし、男のひとの手…」
そっと手を離すフィリシア。フルートは、あいまいに「うん」と頷いていて、セレンは二人の様子を見ながら、(ふうん)と思います。

という、ただそれだけのエピソードですが、これもいずれ、どこかのお話の中に混ぜ込めたらいいな。

こぼれ話:世界が昨日とは違って見える(フィリシア)

昨日までモノクロだった世界が、今日はフルカラー。
そういう、「この時を境にして、世界が変わった」という体験を、多かれ少なかれ、みなが経験するのではないでしょうか。良い方向にであれ、悪い方向にであれ。
お読みいただいている冒険譚の主人公たちも、それぞれに、世界に対する認識の変容を経験しています。
今日は、フィリシアのことを少し。

フィリシアは、まだ小さい、5歳くらいのときに、「妖精の首飾り」で語られたエピソードによって、世界が変わりました。
それまでの彼女は、とても体が弱い子供だったので、すぐに疲れたり熱を出したり咳き込んだりして寝込むことが多く、生きることの難しさを肌身に感じていました。ただ、愛情に満ちた恵まれた環境にあったので、「わたしがいなくなったらお父さまやお母さまが悲しむから、がんばって今日も生きよう。そう思えるわたしは幸せな子供ね」と思っていました。
「妖精の首飾り」で健やかな体を手に入れたとき、彼女は「生きることの容易さ」に驚くことになります。体が軽い。歩いても疲れない。お外で走るのって気持ちいい!
彼女が喜んで跳ね回って遊ぶのを、王と王妃も嬉しく眺めたので、あまり王女らしからぬ遊び(木登りとかね)も、うっかり許されてしまい、それで、フィリシアの少々おてんばな一面が育つことになります。
ちなみに、その後、フィリシアには弟が生まれます。なかなかお話に出してあげられない、心優しく姉思いのリュシオン王子のことも、いずれ取り上げてお話する機会があったらいいなと思います。

こぼれ話:定規を落としてつかむテスト

今日も雑談です。

「定規を落として、なるべく早くつかむテスト」って言ったら、何のことか分かりますか?
敏捷性を計るためのテストです。専門用語では、「棒反応時間」というっぽい?

ええと、被験者は腕を伸ばし、手を軽くひらいた状態で待っています。
その手の中に、もう一人別のひとが適当なタイミングで定規を落とします。
被験者は、定規が落ちると認識した瞬間に手を握って定規をつかみます。
で、どのくらい素早く定規を掴めるか、という。
やったことのある人なら、わかってもらえるのではないでしょうか。そう、あれです。

平均的な人は、ざっくり言って、20cmくらい落下したところを掴めるようです。
能力が高い人だと、15cmくらいのところを掴めるみたい。
そして、こぼれ話としては、フルート(ルーク)は、こういう能力がずば抜けて高いので、この「定規落とし」テストをやったら、3~5cmくらいのところを掴んじゃうよ、という話。
テストした人が「えっ」と言って、10回くらい試してみても、変わらないよ。
動体視力と反射神経が良い、ということだと思います。たぶん。

「訪問者」というお話で、飛んでくるナイフを避けられると話していたり、
「夏の日の青い空」というお話で、殴り掛かられてもひょいひょい避けてたり、
というのは、このへんの能力ゆえです。
身体能力が高い彼は、他にも、たとえば、ラクダを並べて…という話は、これはまた、別の機会に取っておこうかな。
作者は運動音痴なので、うらやましい限りです。

こぼれ話:牛の世話をするお姫様

あれこれ落ち着かなくて、新しいお話がまとまらないので、今日もとりあえず、こぼれ話を。
「誕生日の姫君」というお話の中に、こんな場面があります。

* * *

 フルートは弁明してから、いたずらっぽく笑った。
「ぼくたちの親愛なるフィリシア姫は、明朝は早起きして、牛の世話を手伝うそうだよ」
 セレンは、聞き違えたのかと思って、聞き返した。
「・・・牛の世話?」
「乳絞りが得意だと言っていた。不思議なお姫様だ」

* * *

 お姫様が、牛の世話。
 それでは、フィリシアがどこで牛の世話を覚えたかといえば?

 そう、フィリシアには、クルシュタインの国の中に、拠点が二か所あるのでした。
 ひとつは、都にある王城。もうひとつは、田舎にある、静養のための城。
 病弱だった子供のころ、フィリシアが静養のために訪れていた城は、近くに村がありました。
 「妖精の首飾り」で人並みの健康を手に入れたあとのフィリシアは、その村で、村の子供たちと一緒に、木登りや、牛の世話や、お菓子作りを楽しんだのです。

 ちなみに、フルートが子供のころに木登りを覚えたのは、リーデベルクの城を囲む「王家の森」の中。
 なので、彼は、木登りの他に、虫取りや草笛などもできます。でも、牛の乳絞りはできません。

 …というような話も、いずれは、どこかのお話の中に、そっと混ぜ込みたいな、と思っていますが、なかなか出番がないのです。
 そういうわけで、今日のこぼれ話、なのでした。

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